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静岡地方裁判所 昭和63年(ワ)267号 判決

原告

村田彰

被告

木林俊彦

主文

一  被告は原告に対し、金二〇三三万一三七二円とこれに対する昭和六三年六月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金三二一九万七〇四三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

左記交通事故(以下、「本件事故」という。)により原告は後記傷害を受けた。

日時 昭和六一年九月二七日午前九時三〇分ころ

場所 静岡市手越七〇番地の一 パチンコ銀座駐車場内

加害車 被告所有の普通乗用自動車(静岡五七ま三一三八)

右運転者 被告

事故の態様 パチンコ銀座北側出入口より同パチンコ店駐車場に進入し、時速約三〇キロメートルで進行中の被告車の右側面前部に、同パチンコ店南側出入口から進入し、出入口で一時停止した後、時速約一〇キロメートルで駐輪場へ向けて進行中の原告運転の原動機付自転車が衝突した。

2  傷害

原告は、本件事故により、左側肋骨々折、左肺血気胸、全身打撲等の傷害を受け、事故当日から同年一〇月二二日まで、二六日間静岡県立総合病院に、同月二三日から二四日まで二日間高部外科医院にそれぞれ入院したが、県立総合病院に入院中の同年一〇月一五日視力低下を訴えて同病院眼科も受診するようになり、退院後も昭和六二年一一月四日まで通院治療を受けた。同年一一月四日症状固定と診断された。

3  損害

(一) 治療費 金二六万四二九二円

(二) 入院雑費 金三万三六〇〇円

ただし、一日当り金一二〇〇円として二八日分

(三) 休業損害 金四九九万四六五二円

ただし、一日当り金一万二三六三円として事故日から症状固定日までの四〇四日分

(四) 入通院慰謝料 金一六〇万円

ただし、入院期間二八日分、通院期間三七六日分として。

(五) 後遺障害

原告の後遺障害は、高部外科医院の診断書によると、自覚症状としては「項部疼痛と重い感じがする。頭痛と頭重感がある。自動車を運転又は乗せてもらうと自動車の停止したり車の激しい動きで後頭部が痛む。」とあり、他覚症状および検査結果として「頭部の後屈に際し項部痛がある。下部腰椎の両側圧痛あり。」とある。これは、第一四級の一〇(局部に神経症状を残すもの)に該当する。また、静岡県立総合病院(眼科)の診断書によると、視力(矯正視力)が右が〇・五、左〇・六となつている。原告の視力は本件事故前両眼とも一・二ないし一・五あつたからこの視力の低下は第九級の一(両眼の視力が〇・六以下になつたもの)に該当する。したがつて、原告の後遺障害は九級である。

原告は、昭和六二年一一月四日の症状固定時、満三八歳であつた。

(1) 逸失利益 金二三九一万三二九〇円

(計算式)

4,512,495円(年収)×35/100(労働能力喪失率)×15.141(労働能力喪失期間29年に対するライプニッツ係数)≒23,913,290円

(2) 慰謝料 金五四〇万円

原告の両眼の後遺障害、及び前記神経症状を総合考慮すると慰謝料として金五四〇万円が相当である。

以上金額の合計は金三六二〇万五八三四円となるが、原告は既に保険会社より金六五〇万八七九一円の支払を受けているので、これを差し引くと金二九六九万七〇四三円となる。

(六) 弁護士費用 金二五〇万円

原告は、原告訴訟代理人に本件損害賠償手続を依頼し、その弁護士費用として、金二五〇万円を支払う旨約した。

したがつて、原告が本件訴訟で請求する損害額は合計で金三二一九万七〇四三円となる。

4  よつて、原告は、運行供用者である被告に対し、自賠法三条に基づき損害賠償金として金三二一九万七〇四三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1項の事実について、交通事故の発生の外形的事実は認める。

同2項の事実を認める。

同3項の事実のうち(一)、(三)及び内払金については認め、その余の事実については不知乃至争う。特に後遺障害の程度については争う。

神経症状が同後遺障害一四級一〇号に該当することは認めるものの、視力障害については器質的損傷、他覚的所見もないことから前記後遺障害には該当しないものと考えられる。

三  抗弁

本件事故は、静岡市手越七〇番地の一所在のパチンコ銀座の駐車場内での事故である。同駐車場に、被告は北西出入口より進入し時速二〇~二五キロメートルで走行し、また原告は西南出入口より進入し時速一〇~一五キロメートルで走行して、衝突した。ところで、西南出入口付近には変電設備小屋が設置されており、被告の進行方向からは右方の見通しが、原告の進行方向からは左方の見通しが妨げられている。

以上のような状況からすると、原・被告間に走行についての優先関係はなく、互いに前方不注意の過失があり原告にも五割の過失が考えられるのである。又、原告が原動機付自転車を運転していることを考慮しても、少なくとも四割の過失が相殺されるべきである。

四  抗弁に対する認否

過失相殺の主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

成立に争いのない乙第一号証の一ないし七によれば、請求原因1の事実が認められる(但し、被告車の速度は時速約二五キロメートル)。

この事実によれば、被告は駐車場内を進行するに際し、進路左右の安全確認を怠つた過失があり、自賠法三条により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

そこで請求原因3の(五)の後遺障害について判断するに、鑑定結果によれば、原告には本件事故による視力低下(右眼矯正視力〇・六、左眼矯正視力〇・五)、視野狭窄、調節力低下が認められ、これは自賠法施行令二条の九級に該当するというべきである。

損害について判断するに、請求原因3の(一)、(三)の各事実は当事者間に争いがない。

入院雑費は一日当り金一〇〇〇円が相当であり、総額金二万八〇〇〇円となる。

入、通院慰謝料としては金一六〇万円が相当である。

後遺障害の逸失利益としては、原告の一日の収入が金一万二三六三円であることは被告の明らかに争わないところで、症状固定時満三八歳であることから就労可能年数二九年、労働能力喪失率三五パーセントとして算定すると、総額は金二三九一万三二九〇円となる(円未満切り捨て)。

451万2495円(年収)×35/100×15.141(ライプニッツ係数)=2391万3290円

後遺障害慰謝料としては金五四〇万円が相当である。

以上合計損害額は金三六二〇万〇二三四円となるが、前認定の事故状況によれば、原告にも左右安全確認不充分の過失があり、その過失割合は、原告三割、被告七割とするのが相当である。

よつて前記損害額から過失相殺として三〇パーセントを控除すると残額は金二五三四万〇一六三円となる(円未満切り捨て)。

原告が既払金として金六五〇万八七九一円を受領していることは当事者間に争いがないので、これを控除すると残額は金一八八三万一三七二円となる(円未満切り捨て)。

弁論の全趣旨によれば、原告が原告訴訟代理人に本訴提起と追行を委任したことが認められ、認容額等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用としては金一五〇万円が相当である。

以上原告の本訴請求は、被告に対し金二〇三三万一三七二円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和六三年六月一三日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林登美子)

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